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「尊敬」「謙譲」「丁寧」の定義、敬意の方向は大丈夫ですか?。敬語動詞は最後にひととおりまとめるので、まず、敬語動詞の中でも面倒なものを仕分けてしまいますか。入試でも頻出事項なので、しっかりおさえてください。逆に、これら面倒グループを片付けてしまえば、あとは覚えるだけ、面倒なことはありません。敬語習得の山場を越えていきます。
【謙譲と尊敬の二マタをかける敬語動詞】
★★★〈たてまつる〉
1.「与ふ」謙譲(差し上げる)
…「与える」動作の対象が貴人。
2.謙譲の補助動詞(お~申し上げる)
…動詞に下接し、「動詞+奉る」の形をとる
3.
「飲む・食ふ」尊敬(召し上がる)
…文脈に「飲み物、食べ物」がある。
※ただし、「飲み物・食べ物」を「差し上げる」場合もあり。
「乗る」尊敬(お乗りになる)
…文脈に「乗り物「輿(こし)…皇族が乗る」、
「牛車(ぎっしゃ)…貴族が乗る」などがある。
「着る」尊敬(お召しになる)…文脈に「着物」がある。
例1.簾(すだれ)すこしあげて、花奉るめり。
(すだれを少し上げて、花を差し上げるようだ。)
例2.さぶらふ人々、もとめたてまつれども、
(お仕え申し上げる者たちはお探し申し上げるけれど、)
例3.壷なる御薬たてまつれ。
(壷に入っているお薬を召しあがってください。)
・御輿(みこし)にたてまつりて後に
(輿にお乗りになったあとに)
・ことさらにやつして、無紋(むもん)を奉れり。
(わざと目立たないようにして、無地の着物をお召しになっている。)
「奉る」の尊敬の用法に要注意!形だけ見てもわからないので、「何を(に)奉るのか?」文脈をよく見てください。選択肢問題なら「楽勝」と言ってほしいところです。出すなら記述でききたいですね。シンプルですが、東京大学など難関国立大学の傍線部訳でもよく出しています。
★★★〈まゐる/まゐらす〉
〈参る〉
1.「行く、来」謙譲(参上する)
…「行く」対象が貴所。
2.「す、与ふ」等の謙譲(~して差し上げる、差し上げる)
…「して差し上げる」対象が貴人。
3.「飲む、食ふ」尊敬(召し上がる)
…文脈に「飲み物、食べ物」がある。
〈参らす〉
4.「与ふ」謙譲(差し上げる)
…「与える」対象が貴人。
5.謙譲の補助動詞(お~申し上げる)
…動詞に下接し、「動詞+参らす」の形をとる。
例1.しはすになりて、またまゐる。
(十二月になってまた参上する。)
例2.親王(みこ)にむまの頭(かみ)大御酒(おほみき)まゐる。
(親王にうまの頭がお酒をおすすめ申し上げる。)
例3.御酒(みき)まゐるかはらけの中などに散りかかる。
(お酒を召しあがる杯の中に散りかかる)
例4.乾鮭(からざけ)といふ物を供御(ぐご)にまゐらせられたりけるが、
(乾鮭というものを帝のお食事として差し上げなさったが、)
例5.これを主(あるじ)と、うち頼みまゐらせて、
(この人を主人にしようとあてにし申し上げて)
辞書を見れば一目でわかりますが、「参る」「参らす」は多用な意味を表現しますから、一筋縄ではいきません。いろいろな文脈の中で訳す練習をしていきましょう。
ただし、いえることは、「参る」「参らす」は別の敬語動詞としておさえた方がよいということです。
一般に、敬語動詞に「す」「さす」がくっついても意味は変わりません。ただ、敬意が強まります。
・「給ふ→給はす(敬意強)」…「与ふ」尊敬(お与えになる・下さる)
・「のたまふ→のたまはす(敬意強)」…「言ふ」尊敬(おっしゃる)
・「聞こゆ→聞こえさす(敬意強)」…「言ふ」謙譲(申し上げる)
などです。
上記、「参る」に補助動詞の用法はありません。一方、「参らす」に尊敬の用法はありません。説明のしかたは辞書、先生によってさまざまでしょうが、わたしはそれぞれ別の動詞としておさえたほうが混乱が少なかろうと思います。
ちなみに、「参らす」の意味って、「奉る」と共通しています、意外なことに。
とりあえずは、「参る」「参らす」をきちんと訳し分けられるように、「参る」の尊敬をきちんと訳せるように。その後、読解しながらいろいろなバリエーションをおさえていくとよいでしょう。
その先のハナシ。「参らす」の「す」が使役、「参上させる」場合もあるので、本当にやっかいな表現ですよ。今の段階で悩む必要はありませんが、「参る」「参らす」の訳出は最後の最後まで悩ましい、というのは念頭においておきましょう。上級編で「参らせ給ふ」の表現をやりましょう。早稲田大学で出しています。
【平常語と謙譲の二マタをかける敬語動詞】
★〈聞こゆ・聞こえさす〉
1.(音が)聞こえる
…文脈に音のするものがある。
・うわさされる、世に知られる
…世間的評価をいっている文脈。
2.「言ふ」謙譲(申し上げる)
…「言ふ」対象が貴人。「と(など)聞こゆ」の形をとることが多い。
3.謙譲の補助動詞(お~申し上げる)
…動詞に下接し、「動詞+聞こゆ(聞こえさす)」の形をとる。
例1.宿直(とのゐ)申しの声聞こゆるは、
(宿直申しの声が聞こえるのは、)
例2.これ昔名高く聞こえたるところなり。
(ここはその昔、評判になって世に知られた所である。)
例3.「いとよう似給へり」と内侍〈ないし〉のすけのきこえけるを、
(たいそうよく似なさっていると内侍のすけが申し上げると、)
※「と~聞こゆ」の形をとっていることに注目。
例4.竹の中より見つけきこえたりしかど、
(竹の中から見つけ申し上げたけれど、)
※「動詞+聞こゆ」の形をとっていることに注目。
「聞こゆ」さらに謙譲の敬意を強めて「聞こえさす」です。意味はまったく同じ、謙譲の用法も同じ、ただ謙譲の敬意が強くなります。
難しい敬語ではないし、さほど重要という感じもしないのですが、実戦では驚くぐらい出ています。センター古文でも頻出事項。例題を出してみましょう。
問 傍線部の解釈として適当なものを選べ。
~ 動詞+聞こゆ ~ 。
1.~動詞すると耳に入って ~ 。
2.~動詞とお聞きになって ~ 。
3.~動詞と評判になって ~ 。
4.~動詞し申上げ ~ 。
5.~動詞し申上げ ~ 。
なんて具合でしょうか。「動詞+参らす」についても言えることですが、「動詞+聞こゆ(聞こえさす)」が傍線部中にあったら、まっ先に選択肢は謙譲の補助動詞「~し申上げる」で洗ってください。五者択一がだいたい二者択一になるでしょう。時間と労力を省いてくれます。
つまり、ドンピシャ!答が出てくる「大ネタ」ではありませんが、選択肢を減らす「小ネタ」としてよく使えます。文法事項は「道具」として使ってナンボです。使わない手はありません。
ちなみに、「聞こゆ(聞こえさす)」の謙譲の用法って、「申す」と共通しています。意外なことに。
【尊敬と謙譲(へりくだり)の二マタをかける敬語動詞】
★★★★★〈給ふ〉
1.四段・「与ふ」尊敬(お与えになる、下さる)
2.四段・尊敬の補助動詞(~なさる、お~になる)
3.下二段・謙譲(※へりくだり)の補助動詞(~ます)
3.は※コミュニケーション(会話・手紙のやりとり)の相手に対して自己の認識する動作を低める働きをします。
「謙譲」なのに「~ます」と訳すのはなぜか???
謙譲表現とは「低める」表現ではない、「高める」表現であると述べてきました。謙譲の補助動詞は「奉る」だろうが「参らす」だろうが「聞こゆ」だろうが、「動詞し申上げる」です。下二段謙譲(へりくだり)の「給ふ」というのは、例外的に「低める」はたらきをします。
コミュニケーション(言葉のやりとり)関係で話し手(書き手)が聞き手(読み手)に敬意を表す。対等関係なら「ため口」です。聞き手(読み手)を「高める」のが丁寧表現。それに対して、話し手(書き手)自身が自分を「低める」のが下二段謙譲(へりくだり)「給ふ」なのです。やり方は違っても結果は同じでしょ?
聞き手(読み手)…高(丁寧表現)
↑
↓
話し手(書き手)…低(へりくだり表現)
結果的に丁寧と同じになるので「~ます」と訳しているのです。辞書をひくと「~させていただく」と訳していますが、なんともしっくりこない訳になってしまいます。「このように思わせていただきます」とかね。下二段謙譲の補助動詞「給ふ」は「~ます」でいいです。あるいは場合によっては「拝~」をつけてへりくだり表現にします。
〈へりくだり「給ふ」の訳出のバリエーション〉
・「思ふ」「覚ゆ」「知る」のへりくだり「存じます」「存じ上げる」
・「見る」のへりくだり「拝見する」
・「聞く」のへりくだり「拝聞する」」「拝聴する」
と訳せると、とても気が利いていますね。上智大学、早稲田大学レベルになると選択肢の訳になってくる可能性があります。今のところは「~ます」でOK、演習量をこなせば、しょっちゅう出てくるでしょうから、やがては上記のへりくだりの訳が出来るようになるといいですね。
ちなみに、「会話文」「手紙文」でしか使われないのは、つまりコミュニケーション(言葉のやりとり)関係、つまり「顔見知り」関係の中でしか使われないからなのです。「地の文」というのはコミュニケーション関係ではありません。言葉は一方通行でしょ?不特定多数の読者に対して作者が「へりくだる」ことはないということです。
〈識別の要点〉
1.は本動詞、本来の動詞としての機能(動作の表現)をしている。上に動詞が無い。
2./3.の識別…補助動詞だから直前に動詞があり、「動詞+給ふ」の形をとる。
〈四段・尊敬の補助動詞〉
給(は・ひ・ふ・ふ・へ・へ)
※動詞+「給は、給ひ、給ふ」は四段、尊敬の補助動詞に決まる。(四段尊敬にしかない)
〈下二段・謙譲の補助動詞〉
給(へ・へ・○・ふる・ふれ・○)
…自分の動作のへり下りだから命令形は存在しない(「命令」は相手の動作でしょ?)
終止形も用例がない。
※動詞+「給ふる、給ふれ」は下二段、謙譲の補助動詞に決まる。(下二段謙譲にしかない)
「給ふ」の尊敬補助動詞/謙譲補助動詞の識別については、「動詞+給へ」のときだけ迷う。接続から確認。
已然・命令形がくるべき所に「給へ」とあったら尊敬の補助動詞。
未然・連用形がくるべき所に「給へ」とあったら謙譲の補助動詞。
〈確認〉
・下二段・謙譲の補助動詞「給ふ」は「思ふ、覚ゆ、見る、聞く、知る」といった認識を表す動詞にしかつかない。(ただしこれらの動詞に下接しているからといって下二段・謙譲と判断しないように)
・下二段謙譲の補助動詞「給ふ」は「手紙文」、「会話文」でのみ用いられる。(基本的に「地の文」で用いられないのは上記のとおり。)
例1.御使(みつかい)には、青鈍(あをにび)の綾(あや)一襲(ひとかさね)たまふ。
(使いの者には藍色の綾織物一襲を下さる。)
※「給ふ」の上に動詞がないので本動詞とわかる。
例2.かぐや姫いといたく泣きたまふ。
(かぐや姫はたいそうひどくお泣きになる。)
※「動詞+給ふ」の形は尊敬の補助動詞に決まり。
例3.「こころゆかぬやうになむ聞きたまふる」
(満足しないように聞きます。)
※「動詞+給ふる」の形は謙譲の補助動詞に決まり。あとは、会話文で使われている、OK!認識の動詞「聞く」に付いている、OK!と確認。
例3.「いさ、知り給へず」
(さあ、どうだかわかりません。)
※「動詞+給へ」は判断が必要です。必ず活用形から判断する。「ず」は未然形接続だから、「給へ」は未然形、下二段謙譲の補助動詞に決まる。あとは、会話文で使われている、OK!認識の動詞「知る」に付いている、OK!と確認。
ちなみに、なぜ助動詞の接続、活用を覚えるのが重要かわかりますね?それらがわからないと、結局、古文でいちばん出題される「動詞+給へ」の識別ができないのです。
出題パターンとしては、「動詞+給へ」の形でしか聞かないでしょう。下二段謙譲に傍線、「傍線部とおなじ用法のものを本文中(選択肢の中)から選びなさい」という設問になります。
早稲田大学になると虫食いの空欄補充問題で、
問:「給ふ」を適当に活用させて空欄を補いなさい。
「 ~思ひ( )て、 ~ 」
という具合です。上の問いの答えはないですが、わざわざ設問になるのだから下二謙譲「給へ」だろう、会話文だし、「思ふ」に付いてるし、と思ったら、他者の動作だから四段尊敬じゃないとおかしい、正解は四段尊敬「給ひ」でした、みたいな問いを早稲田大学で実際に出しています。
だから、「へりくだり」の定義を細かく説明しました。文脈がわかっているうえに、「給ふ」の定義をしっかりおさえていないと早稲田の虫食い、並べかえ問題に対応できないからです。受験生は戦略的にものを考えるように!早稲田大学が「動詞+給へ」に傍線、「同じものを選びなさい」って出すわけが…ない!
さらに細かく見ておきましょう。
下二段・謙譲の補助動詞「給ふ」は、複合動詞(二つの動詞が複合し一つの動作を表現する)に接続する場合は間に割って入ります。というか、認識を表す動詞「思ふ」「見る」などはたくさん複合動詞を作ります。「思ひ知る」(わかる)、「見付く」(見つける)など。二つの動詞が複合しても、動作は一つです。そのとき、へりくだり「給ふ」は意地でも認識を表す「思ふ」「見る」などの動詞に直接つながろうとします。
「思ふ(動詞)」+「付く(動詞)」=思ひ付く(複合動詞)…動作は一つでしょ?
〈へりくだり〉=「思ひ付く」→「思ひ給へ付く」
ちなみに四段・尊敬の補助動詞「給ふ」は、くっつく動詞が決まっているわけではないので、そのまま接続し、
〈尊敬〉=「思ひ付く」→「思ひ付き給ふ」
となります。実際に上智大学『源氏物語』で出しています。やってみましょうか?
問:傍線部と同じ用法(「給ふ」謙譲)のものをa、異なるものをb、としなさい。
・ ~ 見分け給へば、
と、実際の文は忘れたので表現はテキトーですが、設問の趣旨は同じです。この選択肢、接続助詞「ば」で終わっているので、「未然形+ば(仮定条件)」なのか、「已然形+ば(確定条件)」なのかわかりません。つまり「已然形で四段・尊敬」なのか、「未然形で下二段・謙譲」なのか区別できません。
どうやって判断しますか?
「見分く」って、動作は一つ、複合動詞でしょ?「見給へ分く」と間に割って入っていない、ということは、四段・尊敬の補助動詞なのです。
これが実戦。難関大学、最重要事項はここまでやらないと点数になりません。このレベルで合否がわかれます。
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