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助動詞を終えたところで、敬語の説明に入ります。「敬語」とは、すなわち「敬語動詞」、動詞ですから、ここにいたって動詞の活用がわからない、ではどうしようもない。
「敬語」の三用法「尊敬」「謙譲」「丁寧」について解説していきますが、「尊敬」「謙譲」徹底的に、「丁寧」は何も難しくないので、さらっと解説していきます。
はじめに、「敬意の方向」から確認していきましょう。なぜ「敬意の方向」をおさえなければならないのか?ataniytoni
私たちが読む古文、特に平安の古文、どのような人が書いたものでしょう?当時、文字をかけた人、和歌を詠めた人、そう、貴族階級の人たちです。あるいは僧侶ですか。そのような人たちが身のまわりのことを日記、随筆、物語にしていったものを我々は「古文」として読んでいるわけです。つまり、古文は階級社会(上下関係)の中で書かれているということです。当然、人物関係はその上下関係を色濃く反映します。
古文を読んでわかりづらいのは、いろいろあるでしょうが、やはり人物関係です。また、「主語の問題」「会話主の問題」によくなります。敬語はそれらを判断するうえで、決定的なヒントを与えてくれます。敬語がわかるから人物関係が全てわかる、わけではありませんが、敬語がわからないことには人物関係もわからない、と言えます。人物関係の把握、その土台になっていくのが「敬意の方向(誰から誰への敬意か)」なのです。
【敬意の方向】
尊敬(~なさる・お~になる・~していらっしゃる)
語り手(作者・話し手)→動作をする人
謙譲(お~申し上げる)
語り手(作者・話し手)→動作の受け手・動作をされる人
丁寧(~です・~ます)
語り手(作者)→読者
語り手(話し手)→聞き手
〈誰からの敬意か?〉
その文をもともと考えた人からの敬意です。「地の文(作者自身が書いている文。本文のいちばん下地となる文)」なら作者からの敬意。「会話文(だいたい「カギカッコ」をつけてくれます)」なら話し手からの敬意。「手紙文」なら手紙を書いている人からの敬意。
〈誰への敬意か?〉
まず、「尊敬・謙譲」と「丁寧」とは別な敬語法だと考えてください。「尊敬・謙譲」は話題に出てくる人物(マンガでいえばフキダシの中の人物)に対する敬意を表します。
「丁寧」は話題中の人物には関係ありません(フキダシの中の人物には関係ない)。自分の話を読む人、自分の話を聞く人への敬意を表します。
尊敬
動作をしている人、為手(して)への敬意を表します。
謙譲
気をつけなければならないのは謙譲です。敬意の方向が問われる場合も、だいたい謙譲がきかれるはずです。ここで注意すべきは
謙譲表現は低める表現ではない、高める表現だ!
ということです。ただし、「動作の受け手(動作される人)」を高めます。
動作する人を低めることによって相対的に受け手を高める、と説明する立場もあるのですが、回りくどいだけなので、やめたほうがいい。「謙譲表現は受け手を高める」これでおしまいです。「尊敬=為手(して)尊敬」、「謙譲=受け手尊敬」と説明する立場もあり、私はこの立場で解説していきます。尊敬、謙譲のどちらも「高める表現=尊敬表現」ととらえます。その方がシンプルでしょ?
丁寧
これはコミュニケーション(言葉のやりとり)関係の中で使われる敬語です。書く人から読む人(マンガや小説なら読者)への敬意、話す人から聞く人への敬意です。
現代語で敬語の練習をしてみましょう。みなさんが物語の作者の立場に立って、次の文を現代語で言いかえてみてください。
・「太郎が次郎に話す。」
1.太郎に敬意を表すと? → ( )
2.次郎に敬意を表すと? → ( )
3.読者に敬意を表すと? → ( )
4.太郎と次郎に敬意を表すと? → ( )
できましたか?
1.〈太郎に敬意〉
「太郎」は動作する人ですから、尊敬表現にします。「敬語」とはすなわち「敬語動詞」、動詞をいじっていきます。「話す」の尊敬表現は「おっしゃる」、
・太郎が次郎におっしゃる。
あるいは尊敬の補助動詞を用いて、
・太郎が次郎に話しなさる。
・太郎が次郎にお話しになる。
でもよし。
2.〈次郎に敬意〉
「次郎」は動作の受け手(動作される人)ですから、謙譲表現にします。「話す」の謙譲表現は「申し上げる」、
・太郎が次郎に申し上げる。
あるいは謙譲の補助動詞「お~申し上げる」を用いて、
・太郎が次郎にお話し申し上げる。
でもよし。
3.〈読者に敬意〉
話し手から聞き手、書く人から読む人へ敬意を表すときは丁寧表現、
・太郎が次郎に話します。
4.〈太郎と次郎に敬意〉
「太郎」は動作する人、尊敬表現を用います。「次郎」は動作の受け手、謙譲表現を用います。で、問題はココからです。尊敬と謙譲はどういう順番になりますか。
・太郎が次郎におっしゃり申し上げる。(NG)
「おっしゃり(尊敬)」「申し上げる(謙譲)」「尊敬+謙譲」という順番になることは古文、現代語を通じてゼッタイない。
正解は、
・太郎が次郎に申し上げ(謙譲)なさる(尊敬)。
・太郎が次郎にお話し申し上げなさる。
と、必ず「謙譲+尊敬」の順番になります。
【二方面への敬語】
二方面(動作する人、される人)へ敬意を表す
=謙譲+尊敬
「尊敬+謙譲」の順になることはゼッタイありません。敬語動詞がどのような順番をとるか、上智大学で出題しています。早稲田大学の「次の語を適当に活用させ並べかえなさい」といった古文作文で出題する可能性もあります。
【本動詞/補助動詞】
動詞の定義を確認しておきましょう。動詞とは「動作・存在」を表現する語でしたね。
コミュニケーション(モノのやりとり・コトバのやりとり)で多用される動詞は敬語表現をもっています。
・「与ふ」→尊敬「給ふ」 謙譲「奉る」
・「言ふ」→尊敬「のたまふ」 謙譲「申す・聞こゆ」
ところが、すべての動詞が敬語表現をもっているわけではありません。ほとんどの動詞は敬語表現をもっていないのです。
・「書く」→尊敬なし 謙譲なし
そこで、尊敬の代表選手「給ふ」、謙譲の代表選手「奉る」などが動詞にペタッとくっついて「尊敬」「謙譲」あるいは「丁寧」の敬意のみを補助してやります。「動作・存在」を表現せず、敬意のみ補助するから「補助動詞」なのです。
・書き給ふ。(書きなさる。)
・書き奉る。(お書き申し上げる。)
・書き侍り。(書きます。)
この表現で「動作」を表現しているのは「書く」ですね。「給ふ」「奉る」「侍り」は動作も存在も表現していません。ただ敬意のみ補助する、このような敬語動詞を「補助動詞」とよんでいます。それに対して、動作・存在を表現する、本来の動詞として使われる敬語動詞を「本動詞」とよんで区別しています。
「本動詞」という特別な動詞があるわけではなく、敬語の「補助動詞」の用法と区別するために、あえて、「動作・存在」を表す、動詞本来の使われ方をしている敬語動詞を「本動詞」と言っているだけです。
〈「本動詞」と「補助動詞」の違い〉
・(動詞なし)敬語動詞 →本動詞
・動詞+敬語動詞 →補助動詞
敬語動詞が出てきて上に動詞がなかったら本動詞、他の動詞にくっついていたら補助動詞、と基本的には、考えましょう。断定の表現(~でいらっしゃる)、状態の表現(~していらっしゃる)など、例外はいくらでもありますが、それは後まわしにしましょう。
尊敬の補助動詞の訳=~なさる・お~になる・~していらっしゃる
謙譲の補助動詞の訳=お~申し上げる
丁寧の補助動詞の訳=~です・ます
これでだいたい敬語表現は訳せるはずです。
・〈かぐや姫は〉おほやけ(帝)に御文 奉り 給ふ。
(かぐや姫は帝にお手紙を 差し上げ なさる)
「奉る」=本動詞(上に動詞がない)
「与ふ」謙譲・差し上げる
作者(地の文)から帝(動作の受け手)への敬意
「給ふ」=補助動詞(上に動詞がある)
尊敬の補助動詞・~なさる
作者(地の文)からかぐや姫(「奉る」動作をする人)への敬意。
尊敬表現、動作をする人への敬意。謙譲表現、動作の受け手への敬意。とはいえ、補助動詞自体は動作の表現ではないので、補助動詞に関しては、敬意を補助している上の動詞の「する人」「される人」を考えてください。
ちなみに、二方面(する人、される人)に敬意を表す場合は必ず「謙譲+尊敬」でしたね。ここでも確認してください。
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