敬語をしっかりおさえれば、人物が浮かび上がってくる。最高敬語、絶対敬語ほどではありませんが、敬語動詞の強さまできちんと読み取れるようになると、「文脈の中で、一番偉い方がやっている」「文脈の中で一番偉い方にやっている」という読みができるようになります。
【敬意の強さの違い】
訳は同じ、ただし敬意が強まります。
→ 敬意が強くなる
「見る」尊敬・見給ふ→御覧ず(御覧になる)
「思ふ」尊敬・思ひ給ふ→ 思(おぼ)す→思し召す(お思いになる)
「言ふ」尊敬・のたまふ→のたまはす(おっしゃる)
「言ふ・命ず」尊敬・仰す→仰せらる(おっしゃる・命じなさる)
「あり・をり」尊敬・おはす→おはします(いらっしゃる)
「与ふ」尊敬・たまふ→たまはす(お与えになる・下さる)
「言ふ」謙譲・聞こゆ→聞こえさす(申し上げる)
これらをおさえると実戦で次のような使い方ができます。
・「~」とのたまはす。
「のたまはす」と強い尊敬表現になっているので、自分が読んでいる文脈でいちばん偉い人が話しているのだろう。
・「~」など聞こえさす。
「聞こえさす」と強い謙譲表現になっているので、自分が読んでいる文脈でいちばん偉い人に話しているのだろう。いちばん偉い人が聞いているのだろう。
・「会話文」と(など)~動詞。
会話文を読むときは、会話文に入る前にカギカッコ閉じの動詞を確認するといいですね。実戦的な読みをやってみましょうか。みなさんにおなじみの『枕草子』としましょうか。登場人物は、中宮定子、中宮の兄中納言、作者清少納言としましょう。
・「~」と仰せらる。
「言ふ」の強い尊敬「仰せらる」があるから「一番偉い方」が話しているのだろう。謙譲を使っていないので「さもない人」に話しているのだろう。中宮定子様が清少納言に、とかね。
・「~」と申す。
尊敬を使っていないから「さもない人」が、「言ふ」謙譲「申す」があるから「そこそこ偉い方」に話しているのだろう。清少納言が中納言に、とかね。
・「~」と言ふ。
尊敬も謙譲もないから、「さもない人」が「さもない人」にはなしているのだろう。清少納言が同僚の女房に、とかね。
・「~」と聞こえさせ給ひて、
これはムズカシイ。文脈の人物関係をよく見てください。
中納言が中宮定子に話している文脈だったら、「聞こえさす」強い謙譲で中宮定子に敬意(絶対敬語「啓す」を使うかも)、「給ふ」尊敬補助動詞で中納言に敬意。
中宮定子が中納言に話しているなら、「聞こゆ」謙譲で中納言に敬意、「させ給ふ」最高敬語で中宮定子に敬意、となります。
ただ、少なくとも、清少納言は「言う人」でも「言われる人」でもない、という判断ができます。
これが実戦的な「敬語という道具」の使い方です。
作品によりけり、ケース・バイ・ケースですよ。『枕草子』は厳密に敬語を用いているので、上の手法が使えますが、『大鏡』とかの語り物、「説話」など、敬語はいい加減です。とはいえ、人物関係を把握する大きなヒントになります。文法事項は「道具」として自由に使えるようにならないと…でしたね。
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